【短編小説】レンタル彼氏、満瑠くんと宇宙に行った日

SHORT STORY

レンタル彼氏、満瑠くんと
宇宙に行った日

夢中になれるものを忘れてしまった大人へ。
プラネタリウムで過ごした、三時間の物語。

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一「係長」という名前

「私が本当に夢中になれることってあるんだろうか……」

一人暮らしの部屋で私は一人、つぶやいてみる。

私は恵。34歳。東京で会社員をしている。

仕事は出来るほうだと思う。同期の中では一番乗りで係長に昇進した。

それ以来、職場では「係長」、そう呼ばれている。もはや名前ですら呼ばれない。

私は「係長」っていうアイコンなのかな、なんて思うくらい。みんなが私に求めるのは有能な仕事の能力だ。それ以上でもそれ以下でもない。

私が何が好きで、何に夢中になっているのか。そんなことに興味を持ってくれる人は誰もいない。大人なんてみんなそうなのかもしれないけれど、私は毎日、密かに自分に興味を持ってくれる人は誰もいないという虚しさを抱えて生きている。

二そっと、タップして

そんな中、「WarmRelation」っていうサイトを最近私はよく眺めてしまう。

「レンタル彼氏」の会社のサイトだ。

素敵な男性の写真がたくさん掲載されていて、依頼するとデートをしてくれるというサービスを提供している会社。

こういうところに依頼したら、その日だけでも私の話を素敵な男性が聞いてくれて、大切に扱ってもらえるのかな? そう思って眺めてしまうのだ。

気になっているのは満瑠くんという男性。プロフィールが前向きで明るい感じ。

「悩みがあったらお気軽に話してください」

と書いてあるのが気になった。それに、とてもカッコよくて、

こんな人とデート出来たらいいな

なんて思ってしまう。

ここ数日、押そうかどうしようか迷っていた、「メッセージを送ってみる」というボタンを、そっとタップしてみた。デートの依頼内容を聞いてくれる自動返信が返ってきた。

依頼内容……どうしよう。私は頭を悩ませる。そして、学生時代は宇宙のことを考えるのが好きだったなと思い起こした。

9月12日の土曜日に、10時に花畑駅で待ち合わせをして、プラネタリウムを一緒に観に行くデートがしたいです。時間は3時間を考えております。

そうメッセージを送ってみた。丁寧なお返事が満瑠くんから届き、あっという間にデートの約束が成立してしまった。

三忘れていた、好きなこと

当日、私はとても緊張して行ったのだけれど、満瑠くんは、会ってみたら、とても優しい人だった。

「恵さんはプラネタリウムに誘ってくださるなんて、宇宙が好きなんですね」

優しく会話をリードしてくれる。

「はい、そうですね。宇宙、好きです。あと、忙しくて最近、全然、描いてませんが、絵を描くのも学生時代は好きでした」

自分でも忘れていた絵を描くことが好きだったことを、私は思わず口にした。

そして、自分で自分に驚いた。

私、そうだった。絵を描くことが好きだったな。

「絵を描かれるんですね!」

満瑠くんは、とても大きい目を輝かせて、

「どんな絵を描かれるんですか? 観てみたいです!」

と言ってくれる。私は嬉しくなって自分のスマートフォンからかつて描いた絵の写真を探し出して夢中で満瑠くんに語ってしまった。

「私、宇宙の絵を描くのが大好きだったんです!」

満瑠くんと話していると、わくわくする……

まだプラネタリウムも始まっていないのに、私はとても楽しさを感じていた。

そうか、私、絵を描くことが夢中になるほど好きだったなと思いだして、こんなことに気付かせてくれるなんて、満瑠くん、この人、すごいなと、まじまじと満瑠くんを見つめてしまった。

そして、プラネタリウムの始まる時間になった。

観たかったプラネタリウムは、「中山区から宇宙へ」というテーマのものだった。

一緒にプラネタリウムのドームの中に入る。

「どきどきしますね」

と満瑠くんは本当に胸をときめかせている様子だ。

四宇宙船プラネタリウム号

やがてプラネタリウムのドーム内が、ふいに暗転し、上映がはじまった。

皆さまを、この中山区から、この宇宙船プラネタリウム号にお乗せして、遥か138億光年の宇宙の彼方へお連れいたします。

涼やかな女性の声でアナウンスが場内に流れた。

ふわり

プラネタリウムにいるはずの、私と満瑠くんの二人の足が、地面から浮いた気がした。

私たちの身体は、プラネタリウム号に乗って、ぐんぐん建物から飛び出して、上空に飛翔して旅を始める。まるで本当に宇宙船に乗り込んだかのような臨場感だ。

あっという間に太陽系惑星の火星に近づき、矢のような速さで通り過ぎた。木星、土星、天王星。プラネタリウム号はどんどん太陽系の外縁の惑星に近づいては通り過ぎていく。

間もなく太陽系をも後にして、宇宙の果てへの旅は続く。そして銀河系をも超えて、幾百、幾千、幾万と限りなくまたたく星々の間を私たち二人は駆け抜けていく。

そして数々の銀河の海をも飛び超えて、あっと言う間に、138億光年の宇宙の果てまで、旅をしてしまった。

宇宙の果てから見ると地球なんて、点ですらなくて、その地球の上に住んでいる私の虚しさなんて、とてもちっぽけなことのように感じて私は星々を眺めていた。

さあ、宇宙の果てへの旅もそろそろ終わりです。皆さま、私たちの愛する地球に帰還しましょう。

また女性のアナウンスが流れて、私たち二人はたどってきた星々の合間を通り抜ける旅を再びして、あっと言う間にまた、地球へと戻ってきた。

五ピーターパンみたいな人

「いやー、すごかったですね。二人で宇宙の果てまで行ってしまいましたね。最近のプラネタリウムは迫力満点ですね」

満瑠くんは隣の席で、笑っている。

帰り道、満瑠くんは、ドーム型のプラネタリウムの建物を見上げ、子供みたいに両手を掲げた。

「ここから宇宙空間にわーっと飛び出しましたよね」

その様子があまりにも純粋な感じで、このレンタル彼氏の満瑠くんは、まるで、大人になれないピーターパンみたいに無邪気な人だなと笑ってしまう。

六明日も、描こう

デートを終えて、家にたどり着いて、私はごそごそと押し入れから、忘れ去っていた絵の具や筆、スケッチブックを取り出した。

そして無心に絵を描きはじめる。描いているときは抱えていた虚しさなんてまるでなくなっていて、私は描くことに没頭してしまった。

1時間後、描いた絵は、宇宙空間で無邪気に笑っている満瑠くんだった。

明日も、描こう。
私、夢中になれることが何だったのか、
あなたに会ったことで、思い出せたかもしれない。
満瑠くん、ありがとう。

私は自分が描いた宇宙の絵の中で笑っている、
レンタル彼氏の満瑠くんにそっとつぶやいた。

この物語のモデル

真崎 満瑠

WarmRelation キャスト

この物語は、キャスト真崎満瑠から着想を得て書かれました。
プロフィールやXもぜひご覧ください。

※この物語はフィクションですが、WarmRelationのキャストさんから着想を得て書き起こしたものです。