蛍の夜に、思うこと。
夏至の頃。
夕方と夜の境目が、ぼんやりと曖昧になる季節。
空にはまだ明かりを残しながら、森の奥にはゆっくりと闇が深くなる。
そのコントラストが本当に美しく、趣の深さを肌で感じます。
夜の帷が降りたあと。
ふっと灯る小さな光。
1年のうち、たった10日ほどしか出会うことのできない幻想的な光景があります。

源氏蛍。
清らかな水辺に生き、
限られた季節、短い夜にその姿を見せる。
その光景は、儚くも懸命に、短い夜を彩る。
その日、その時間、その空気の中でしか感じられないもの。
美しいものは、いつも儚さとひたむきさを両端に置く。
いつでも手に入るもの。
お金を払えばすぐに届くもの。
画面を開けば何度でも見られるもの。
便利なものは増えました。
けれど、その「便利」に時間と心を奪われ、懸命に生きることを見失ってはいないだろうか。
この蛍たちには、迷いがない。
命を燃やし、懸命に光る。
静かに、しかし確かに。
生きなければならないから。
僕たちは、こんなふうに今を生きることができているだろうか。
会いたい人に会いに行く。
見たいと思った景色を見に行く。
言葉にしたい気持ちを、ちゃんと言葉にする。
それがどれほど大切なことか。
懸命に光る小さな命に、教えられた夜でした。
儚い美しさを、尊べる人へ。
この夜の余韻が、そっと届きますように。

豪華な場所でなくてもいい。
特別な演出がなくてもいい。
季節の美しさに気づく瞬間を一緒に過ごす。
それだけで、夜は十分に美しい。
それだけで、あなたは十分に美しい。
逢坂裕
