再会

2021年1月18日

再会

「あやか、ついに、今日だな」

「うん」

2人は大きな鏡の前で残りの時間を静かに過ごした

たけるはあやかに後ろから抱きついて

鏡に映るあやかのドレス姿を見ながらそう言った

「これから、たくさんの、思い出つくろうね」

「うん」

「あやか、今日は格別に綺麗だよ」

独身の2人のわずか残された時間を

2人はじっくりと見つめあって

お互いの肌を重ねながら思い出を振り返った

そして10分ほど経つと

ドアを叩く音が聞こえた

「あやか、そろそろだ」

「うん」

そうしてたけるは

あやかの唇に軽くキスをして手を差し伸べた

するとドアが開いた

「いま行きます」

そう言いながらドアの方を振り向くと

「えっ」

たけるは固まった

「たける」

父が来た

たけるはいっさい、反応できなかった

「お兄ちゃん」

妹も来ていた

たけるは反応ができない

あやかも驚きを隠せなかった

「お前、、、なんでなんだよ」

「お前、なんで家に帰ってこなかったんだ」

「お父さん、静かにして」

妹がなだめた

「お前、俺たちになにも知らせないで結婚しようとして、全部バレてるんだぞ」

たけるは下を向いて歯を食いしばった

あやかはたけるの手を握った

「ごめんよ、父さん、こんな最低な息子とは離れた方がいい、ゆかりもだ、今すぐ帰って欲しい」

「ばか言うな!帰ってくればよかっただろう!あんなに電話したのにずっと出ないしメールも返さないで、心配してたんだぞ!」

「そうだけど、俺は最低だ、息子だと思わなくて良い、過去に犯した俺の罪は拭えない、出てってくれ」

あやかがたけるの手を握りながら泣き始める

部屋には険悪なムードが漂う

結婚式の直前にしばらく会わなかった親が突然

2人のところに来るなんて、誰も想像していなかった

「お兄ちゃん、なんで、、、、たしかにお兄ちゃんがやったことはすごく罪だし許されないかもしれない、でも、、」

妹は涙を流しながら、震える声で言った

「寂しかったよ、ずっと、」

9年間、たけるは家に帰らなかった

突然家を出て、9年間帰ることはなかった

当時中学3年生だった妹は

もう社会人となりすっかり大人になっていた

たけるはそんな成長した妹を見てうるっときた

9年前に見ていた父親よりも

ずっと老けた父親を目の前に見て涙がさらにこみあげた

たけるはそんな感情を抑え込む

「帰ってくれ、、」

たけるはその言葉しか出なかった

「お前、まだそんなこと、」

「お兄ちゃん、ママはもう良いって、お兄ちゃんのこと許すからって、」

たけるはその言葉で初めて顔を上げた

「ママきっと許してくれたよ、お兄ちゃんがこうやって成功して、素敵なお嫁さん見つけて、将来切り拓いたから、きっと許してくれるんだよ、天国でいまごろ、涙流してると、、」

妹はそう言いかけると涙がドバッと溢れ出てきた

「お前、、こっちこい」

そう言って父親はたけるに近づいて手を広げてハグをした

「言葉なんかいらない、これが俺たちの気持ちだ。バカなやつ、本当にパカなやつ」

妹も走ってハグをした

あやかは膝から床に崩れ落ちて泣いていた

「お兄ちゃん、帰ってきてよ、ずっと寂しかった、ママも仏壇でずっと待ってたのに、謝ってくれれば私たちも許したのに」

「許されない、いまでも許されることじゃない、あんなことをするような人間だ俺は、許されなんかしない」

「ああ、許されない、でもな俺たちは家族だ、お前だから許す、お前じゃなかったら許してない、母さんの財産のほとんどを引き出しからとって逃げるような人間は許されるわけがない、でもお前だから許す、母さんもいまごろお前の姿を見て嬉し泣きしてるぞ」

「お兄ちゃん、、もしかして死んじゃったんじゃないかってずっと心配してたの、その気持ちわかる?すごく辛かったんだから」

妹は泣きながら震えた声でそう言って強くハグした

「たける、あのあと聞いたんだよ。知り合いから。お前がいろんな街ぶらぶらしながら生活してるって、家もなくて公園とかで寝てるって、目撃された場所にすぐ飛んでいって探してもいないし、それ以外の場所もずっと探したけど全然見つかんなくて、一体どこ行ってたんだ」

「お兄ちゃんわざと見つからないように毎日移動して生活してたんでしょ、、二度と帰らないつもりだっだの?」

妹は泣きながらそう聞いた

たけるは答えた

「帰るつもりだったさ、母さんの500万のお金が入ったカバンから2年間、少しずつ取り続けて、、100万円くらいなら、って思ったりして。バレる日がくると思ってた、けど成功するのにどうしても必要だって、色々自分に言い訳してエスカレートして結局400万も取ってしまったって気づいたんだ、それでいますぐ成功しなくちゃって集中して追い込むためにホテル生活を始めて、それでもやっぱり事業はなかなか上手くいかなくて、自分の会社に使ったお金はなくなる一方で、いつ帰ろうかずっと悩んでる時にゆかりからラインが来た時、もう帰れないって思ったんだ。自分がしたことの罪深さを痛感して、押しつぶされそうになった」

「ゆかり?なんてラインしたんだ?」

「….お兄ちゃんに裏切られて悲しいって、」

「それか、、」

「それで自分は最低だと、毎日思い続けて、家にはもう帰れない。400万返済できる経済力を手にして返済しっかりできるようになってから、帰ると、そう決めたんだ。家に帰ったら真っ先に母さんのカバンに借りたお金をしっかり戻してから2人に謝ろうって思ってたから」

「でもそのあと成功したんでしょ?新聞にも載っていたし、ITだったよね?その会社もすぐに軌道に乗ったって」

「すぐじゃない、2年半かかった、それですぐ売却して一生暮らしていけるだけのまとまったお金はできた、でも、いまさら帰っても、って思ってしまったんだ、いまさら帰ったら殺されるんじゃないかって、ずっと連絡も無視し続けてもっと最低な男になって帰っても、、いろいろ、こわくて結局この日まで9年間俺は、、、ずっと、、辛かった、いつもふとした時に2人の顔と母さんの顔を思い出しては、辛かったけどどうしようもなかったんだ」

「お兄ちゃん、、」

「あやかちゃん、だったよな、結婚前にこんなこと言うのも本当に申し訳ないんだが、いま聞いた通り、俺の息子はこんな過去があったんだ」

あやかは泣きながら顔を上げ、顔を横に振った

「たけるくんは好きだよ、それでも私は好きだから」

「あやか」

「私、知ってたんです、彼から昔、その話聞いてました」

「え、」

「お兄ちゃんが自分から盗んだこと話したんですか?」

「そう。9年間って言ったけど、たけるくん、頭も良くてお金持ちで優しくていつもモテるのに私と付き合うまでずっと誰とも付き合わなかったんです。私も付き合うまですごく苦労しました、全然女の子を近よせないんです、逃げるように」

「なんで?」

「私たちが付き合ったのは1年前。つまり8年間、たけるくんは誰とも付き合いませんでした。それは、お金があっても、立場が偉くても、たった1つの過去の出来事が頭から離れなくて、自分は本当に最低で誰と結婚しても幸せにできないって、ずっと思い込んでいたからです」

「そんな、」

「たけるくんはすごく優しいひとって私はわかってました。だから7回告白して7回断られても8回目でやっとOKもらいました。8回目にたけるくんが言ったんです、OKする前にいったんです、このことを話したんです。もちろん私はびっくりしました。でも、そういうことをきちんと話してから付き合うたけるくんがますます好きになりました。そしてたけるくんは私に4年間片想いをしていたことがそのあとわかりました。それでも断り続けるたけるくんの相手を想う優しさ。自分にはもったいない、相手を幸せにはできないって思い込んでいたから…..でも、付き合う前に隠し事もしないで全て話してから付き合っていきたい、っていう考えを持つたけるくんは私の素敵な理想です。たけるくんと結婚せてください」

「えっ」

妹が反応した

父は少し驚いたが、いっとき沈黙し、柔らかい表情で

「あぁ、いいよ、たけるでいいなら。たけるは良いやつだ、根は優しい。あの出来事は母さんの死を無駄にしたくなかったからやったことなんだろう?会社を立ち上げる金が必要だったり、技術者を雇うお金、会社の家賃、色々金がかかる。仕事をしてその金を貯めていたら歳をとってしまう、と。なら母さんのお金で何年も働くことなくいますぐに立ち上げて成功したい、と。お前が考える事くらいわかる。理由がなくお金を取るはずもない。成功する自信と覚悟があったからやったんだろう?ここまで大きく会社を伸ばしたことは俺にとっても母さんにとっても誇りだ。物質的に豊かになって、しかも良い嫁と結婚することになって心の豊かさまで手に入れようとしているお前は幸せ者だ。母さんが残したお金のおかげでお前がこうして幸せになれているなら、母さんはいまごろ天国で喜んでいるぞ。お前の幸せを感じているはずだ。2人は幸せになるんだぞ、たける、あやか。あやかの事は何も知らないが、すぐにわかる、魅力的でこれ以上ないほど優しい愛を理解している女性だ。なぜなら母親と同じ顔つきをしている。オーラが同じにおいがする。人の痛みをよくわかる女性だと。そういう目に見えない大切なものがよくわかる女性と結婚できるお前は幸せ者だ。100万人に1人の幸せ者だぞ。」

「ありがとう」

たけるは下を向いていた、たけるの顔から落ちる光の粒が床を不定期なリズムで叩いていた。

あやかはたけるをギュッと抱きしめた。

たけるはあやかの手を握った。

「それと、たける、念のためだが、人を裏切ることはもう二度としないこと。次やったら許さないぞ。あやかちゃんを裏切るなんてことしたら、たけるの命はないと思うんだ、いいな?」

「わかった」

そう言うとたけるはあやかを引き寄せもっと抱きしめた。

まるで

もう離さない、と言いたいかのように。

父は少しにやけてこう言った。

「たける、いまのは冗談半分だ、お前はそんなことしない。俺がよくわかってるよ」

たけるは下を向いたままだった。

そのあと父は付け加えた。

「許される裏切りなんてものはないから。例え正当な理由があっても」

「わかった」

そう言って

父とゆかりはたけるに近寄ってハグをした。

たけると家族そして、あやかは円になってハグをした

「こんなデカくなって、成長したな」

ゆかりにそう言ったたけるは驚きを隠せなかった

「そうだよ、もう9年経つもん」

「でも声は変わってないな、犬たちは?元気にしてる?パティとプリティは?」

「もう、、いないよ、、」

たけるは驚き悲しんだ

「いないって、まさか、、」

「お前、計算できるだろう、出てったときはもう15歳だ、2年後にふたりは天国に行った」

「いまごろママと会って走り回ってると思うよ..」

「そうか….そうだよな….」

たけるは大好きな犬たちがもういないと聞いて涙が溢れそうになった

「お兄ちゃんにとってあの子たちは育ての親というか、ママと同じくらいお兄ちゃんを良くしてくれたもんね、お兄ちゃんが小さころからあの2人はよく遊んでくれていたし、お兄ちゃんがいじめられて泣いて帰ってきた時もすぐに慰めてくれたのはあの2人だったもんね」

たけるは下を向く。

「たける、大丈夫だ、こうやってお前は自立して成長したんだ、こんなでっかい会社つくって母さんも犬も、許してくれる」

「どうやって、家ないのに会社作ったの?」

たけるは溢れ出る涙を我慢できずトイレに行った

たけるの代わりにあやかが説明した

「たけるくんは、毎日いろんな場所の公園に移動しては、ずっとパソコンとスマホで仕事していました。自分で色々調べたり研究したりしてすぐに起業をしました。本当にお金は仕事以外にはかけないで食べ物も1日1食で、人件費とか会社にかかる費用にしかお金をかけませんでした。だから会社の本社を持つまではずっと外で生活していたんです。親の金だからって、1円も無駄に使いたくなかったって。そんな無理な生活をしたせいで食べ物のアレルギーにかかっちゃいましたが、そのあと私の料理だけ食べるようにさせたり工夫を凝らしてしっかり治療したら今ではすっかり良くなりました、まだたまにアレルギー起こしますが、昔ほどひどい症状になることなく私も安心しています」

「そうだったのか、」

「家がない頃、真冬になると流石に公園はきついので駅の地下で震えながら寝る時間も削ってずっと、、。友達の家に行けばいいのに友達に気を遣ってしまう彼はそれができませんでした。薄いシャツとジーパンでマイナス温度の厳冬を乗り越えて春を迎えられたのはわたしは今でも信じられません。多分、お母さんへの想いと自分が立てた誓いが、生命力を強くさせていたのだと思います」

「あやか、もういいよ、そんなことまで話さなくても」

トイレから戻ったたけるはそう言って話を遮った。

「ずっと、成功することにこだわって、夢見ていました。『成功して、家に帰りたい、家族と会いたい』って。その一心で何年も努力してこんな大きな会社をつくることに成功したんです」

「お前、、そうだったのか?」

「お兄ちゃん、、」

「こういう形だけど、また2人と会えて良かった、再会できて、本当に」

そのあと

たけるとあやかが誓いのキスをする時

父は初めて、子供達の前で涙を流した

子供の頃から育て、弱みも強みも得意も不得意も好き嫌いもすべて知っている親が、いざ、子供が新しい家庭をつくろうとしている時を見ると、どんな親でも心が動く

父は亡くなった妻にささやいた

「聞こえるか?この鐘の音。俺たちが30年前に聞いた音と全く同じだ。あの時のお前の瞳はキラキラとしていて、俺は、目の前で起きていることが信じられなかった。白い天国の衣装のようなものを着るお前は見たことないくらいまぶしくて、この世のものとは思えない程だった。そのあとのハネムーンからは完全にお前の虜になった。お前と過ごしてきた人生は信じられないことだらけで、毎日が刺激的でロマンチックで最高に温かい日々だった、そしてお前が突然天国にいったときも信じられなかった。こうやって子供が幸せそうに次の段階に進もうとしているのを見ただけで、なんていうか、お前がいなくなってから、すべてが曇って見えていたものが、いまはすべてサッーて光が差し込んできた。目の前に見えるすべてが真っ白に見える。あの時の眩しさが瞳に蘇ってきたんだ。まるで色盲から色が見えるようになった人のような感動。この感動、お前にわかるだろうか?お前を失ってから、悪いことしかないと思っていたけど、こうやって見ると、俺たち、贅沢な人生送ってきたんだな、可愛いゆかりと、立派になったたけるをこうして見ると、俺らって、やっぱ幸せ者だったんだな」

父は、とまらない大粒の涙を、母から記念日に貰ったハンカチで丁寧に拭った

「たけるとの再会の次は、お前との再会だな、それまでに化粧しておけよ、俺もヒゲ剃っておくから。懐かしいな、白い肌のお前が蘇ってくる。細くてスタイルも良くて何食べても太らないお前はいつも人の注目の的だった。でも忘れるなよ、俺が惚れたのはお前の優しさと愛情だ。みんなお前の見た目しか見てなかったが、俺はほとんどお前の内側にある魅力にとりつかれて好きになった。小さい子供への愛情。知らない人を自ら助けに行くお前の優しさ。言葉も話せない石ころくらいの小さな生き物の命も大切に守ろうとするお前の感性。そういうところを俺は好きになったんだ。いくつになっても、そんなお前の心は変わらなかった。そして俺のお前に対する愛情も変わらなかった。加齢でシワができても、少しふっくらしてきても、事故で目を失った後も、俺はそんなお前の心に夢中だったんだよ。ふたりでふざけて映画のワンシーンの真似してポージングして写真たくさん撮ったよな、それでお前を持ち上げたとき軽くてびっくりしたよな。お前も俺が思った以上に高く持ち上げるからびっくりしてでかい声上げてたよな。自殺したことがいまでも信じられないけどさ、ごめんよ、俺のせいなんだよな、辛い思いさせて。1人で悩んでるの気づけてあげられなかった。1週間ずっと2階から降りてこないお前が遺書を書いて丁寧に思い出をまとめて、携帯の解約の手続きまで全て済ませてるなんて、俺は思ってもなかったし、いつもみたいに一人でピアノに夢中になってるかと思ってたんだ。ごめんな。気づいてあげられなくて。1人で泣いてたんだろ?思い出みながら、1人でどうしたらいいか分からなかったんだろう、もう楽になったよな。もうすぐでそっちに行くからさ。また2人だけでゆっくり過ごそう。また手繋いでさ、公園を走り回って、噴水におっこちて、びしょぬれのまま映画館に行こう、そして俺たちの人生を2人きりで振り返ろう、俺たちの人生は映画そのものだから、映画のような人生を2人で隣で振り返ろう、忘れていたあの瞬間も思い出せるかもしれない。一人で観に行くんじゃないぞ、再会するそのときまで」

*ここにあるものは、文章、イラスト含めすべて創作物です。

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この記事を書いた人

ゆうや

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